フィリピンによる仲裁申立理由ならびに本件の地域および世界に対する重要性

「フィリピンによる仲裁申立理由ならびに本件の地域および世界に対する重要性」

アルバート・デル・ロサリオフィリピン共和国外務大臣の常設仲裁裁判所における陳述、2015年7月7日、於ハーグ

フィリピン共和国 対 中華人民共和国

  1. 裁判長、常設仲裁裁判所裁判官の皆様、我が国、フィリピン共和国を代表して、皆様の前でアピールすることを、非常なる名誉と考えます。全てのフィリピン国民にとってこのように重要な、そして付け加えれば、国際関係に於ける法の遵守の為に重要な、このケースをアピールすることはこの上ない特権です。
  2. 裁判長、フィリピンは国際的社会が国家関係を規定する為に創造したルールや機関に長期に亘る信頼を置いて参りました。我々は国連の創設メンバーであり、また現在もこのかけがえのない機関の積極的なメンバーであることに誇りを持っております。
  3. 国連は、国際法の威力と相俟って、国家間の偉大な平衡装置としての役割を果たしてきました。特に我が国のような国々にとって、豊かで強大な国々とも対等の立場で交渉できる足場になってきました。
  4. 裁判長、1982年の国連海洋法条約の採択を頂点とする、海洋法の進歩的発展こそ何者にも代えがたいものであります。この海洋法、的確にも「海洋憲法」と呼び習わされてきたこの法律文書の重要な業績として、海洋の平和的利用、航海の自由、海洋環境の保護、そして最重要案件として、国家が主権と管轄権を行使できる海域の限界を定義する明白なルールの体系秩序の達成が挙げられます。
  5. これらは、フィリピンにとって重要性の中心をなす事柄です。実際、フィリピンの長い海岸線、島礁国家としての状態、海洋国家の伝統に鑑み、法制化された海洋法は我が国にとって特別に重要なものです。1982年12月10日に国連海洋法条約は批准の為公開されましたが、フィリピンはその日のうちに、この条約に調印したことを誇りにしております。
  6. フィリピンは本条約の下、自らの権利と義務を誠実に順守し、履行してきました。これは、第46条および47条に従って自国の従来の直線基線を群島基線に転換し、南シナ海のカラヤーン群島およびスカボロー礁の海域が第121条に合致すると規定することにより、自国の海事請求の本条約への準拠を図った国内法改正からも明らかです。
  7. 裁判長、フィリピンはこの大事な第一歩を踏み出しました。なぜなら、この条約の遵守は全ての国家に要求されていることを、我々は良く理解し、また受け容れているからです。
  8. 先ほど国際法の平衡装置について言及しました。多分、国連海洋法条約第15部以上にこの重要な目的にかなった規定はないでしょう。これらの紛争解決条項こそが、弱者が強者にチャレンジする為の同等の地盤を固めるのに役立ち、又、原理原則が力に勝るという自信、法が紛争に勝利し、権利が威圧に打ち勝つという信念の基盤になっています。
  9. 裁判長、ここに謹んで明らかにさせてください。常設仲裁裁判所裁判所に提訴することにより、フィリピンは裁判所にフィリピンと中国の領土主権問題に裁定をお願いしているのではありません。
  10. フィリピンにとって、海域における沿岸国の権原、すなわちそれぞれの海域内の締約国の領海、排他的経済水域(EEZ)・大陸棚、および権利義務に対する権原は、本条約の明文によって確立され、定義され、限定されるものであります。これらの明文は、EEZまたは大陸棚の範囲を超えた海域について、権原、主権、もしくは管轄権の拡大の主張を認めず、現にこうした主張を排除するものであります。特に本条約は、UNCLOSによって認識または制定されている水域の範囲を超えた水域における、いわゆる「歴史的権利」を認めず、その行使も容認していいません。
  11. フィリピンにとって、海域における沿岸国の権原、すなわちそれぞれの海域内の締約国の領海、排他的経済水域(EEZ)・大陸棚、および権利義務に対する権原は、本条約の明文によって確立され、定義され、限定されるものであります。これらの明文は、EEZまたは大陸棚の範囲を超えた海域について、権原、主権、もしくは管轄権の拡大の主張を認めず、現にこうした主張を排除するものであす。特に本条約は、UNCLOSによって認識または制定されている水域の範囲を超えた水域における、いわゆる「歴史的権利」を認めず、その行使も容認していいません。
  12. 裁判所長、残念ながら中国は言行両面において、これに抵抗しているのです。同国は、本条約によって定められた範囲をはるかに超えた水域で、いわゆる「歴史的権利」に基づき、海洋および海底の資源に対する排他的権利を含め、主権および管轄権を行使する権利があると主張しています。この「歴史的権利」なるものが、中国の主張にあるように、中国のいわゆる「九段線」によって一般に定められた範囲に適用されるのかどうか、またはこれらが南シナ海のさらに広い範囲もしくは狭い範囲を包含するのかどうかにかかわらず、議論の余地のない事実であって当事国間の法的紛争の中心的要素は、中国が、本条約の下での自国のEEZおよび大陸棚の権原の範囲をはるかに超える海洋および海底の広大な水域に対して「歴史的権利」を強く主張していることにあるのです。
  13. 裁判所長、中国の行為は、単にこうした「歴史的権利」なるものを主張するにはとどまらないのが実情です。UNCLOS の範囲を超えた水域の生物資源および非生物資源を採掘する一方で、フィリピンを含む他の沿岸国による当該水域での資源採掘を強引に妨げるという形で、その権利を主張するために力ずくで行動しています。しかも、当該水域がフィリピン沿岸から200海里の範囲内にあり、かつ多くの場合、中国が本条約の下でまことしやかに主張するEEZまたは大陸棚から何百海里も離れているにもかかわらず、です。
  14. 中国の「歴史的権利」なるものの主張および行使をめぐるフィリピン・中国間の法的紛争は、中国が「歴史的権利」は本条約で認められていると主張しようと、または本条約で排除されていないのだから本条約の下で容認され得ると主張しようと、本条約、とりわけ第15部に該当する問題です。中国は公式声明の中で両方の主張をしていますが、本紛争を本条約の解釈または適用を要する問題と見なす上では、何の違いも生み出しません。フィリピンと中国の見解対立から生じた問題は、次のようにまとめることができます。海洋の権原はUNCLOSによって厳格に管理され、ゆえに「歴史的権利」に基づく海洋の権原の主張は排除されるのか。または、一国家が本条約自体で定められている権利を超えてまでも、「歴史的」もしくはその他の権利に基づいて権原を主張することをUNCLOSは認めるのか。
  15. 裁判所長、我が国の法律顧問が今後説明するように、かかる「歴史的権利」を容認すれば、UNCLOSの性格そのものとも、沿岸諸国の海洋権原に関するその明示的規定とも矛盾することになるのです。
  16. これは間違いなく、本条約の本質についての適切な解釈を必要とする問題です。中国がUNCLOSの下での権原を超えた水域について有するという権利を主張および行使することにより、我が国と中国との関係や周辺地域において多大な不確実性と不安定性が生じています。この点に関して、この重要な手続きの成り行きを見守るため、本日ここにベトナム、マレーシア、インドネシア、タイ、および日本の代表が出席していることに言及いたします。
  17. 裁判所長、中国は同国本土沿岸または主権を主張する地形から200海里を超え、かつフィリピンの主な島々の沿岸から200海里以内にある水域に対して「歴史的権利」を主張しており、かかる水域の資源を採掘するとともに、フィリピンによる採掘を妨げています。したがって、中国はフィリピンの主権および管轄権を侵害することによって本条約に違反している、というのがフィリピンの見解です。中国は、圧倒的な力を背景に、かかる係争状態にある海域において活動を続行しています。フィリピンは、国際法に訴えて対抗するほかありません。だからこそ、本件はフィリピンにとって根本的に重要な問題であり、南シナ海における中国の海洋権原がどこにあって、どの範囲にまで及ぶのか、フィリピンの海洋権原がどこにあって、どの範囲にまで及ぶのか、そして各当事国の権原がどこでどの程度重なり、どこで重ならないのかにつき本裁判所の判断を求め、広く法の支配のために提起するものであります。これは、領土主権問題や海洋境界画定に関する判断を求めるものでも、まして懇請するものでもありません。
  18. フィリピンは、UNCLOSの下で招集される本裁判所の管轄権が海洋法に関わる問題に限定されることを承知しています。これを念頭に、我が国は、本条約の下で直接生じる請求のみを提起するよう細心の注意を払っています。フィリピンの法律顧問が今後詳細に議論するように、我が国は、基本的に下記の5つの主要な請求を提示しています。
    • 第1に、中国は、本条約に基づく権原の範囲を超える海域、海底、およびその下に対し、同国の言う「歴史的権利」を行使する権利はない。
    • 第2に、いわゆる「九段線」には、「歴史的権利」に対する中国の主張の範囲を定める意図があることから、国際法上の根拠は一切存在しない。
    • 第3に、中国が南シナ海における自国の主張を押し通す根拠として依拠するさまざまな海洋の地形は、排他的経済水域または大陸棚の権原を生じさせる島ではない。それどころか、あるものは第121条第3項の意味するところの「岩」であり、あるものは低潮高地であり、またあるものは恒久的に水没している。ゆえに、12海里を超えて権原を生じさせ得るものは何もなく、一部はまったく権原を生じさせないものである。昨今の中国の大規模な埋め立て活動によって、こうした地形が本来持つ特質および性格を合法的に変更することはできない。
    • 第4に、中国は、フィリピンの主権と管轄権の行使に干渉することによって、本条約に違反している。ならびに
    • 第5に、中国は、UNCLOSに反して、フィリピンのEEZ内水域を含む南シナ海のサンゴ礁を破壊し、破壊的で危険な漁業活動を行い、絶滅危惧種を捕獲することにより、当該地域の海洋環境に取り返しのつかないほどの損害を与えている。
  19. 裁判所長、フィリピンは国際法に基づいて平和的に紛争解決することを決意しております。20年以上に渡り、平和的な紛争解決に向けて、2国間、地域間、そして多国間でのたゆまぬ努力を続けてきました。フィリピンが行ってきた難儀で骨の折れる外交努力の詳細については陳述書に列挙してありますので、この場で説明はいたしません。ただ、幾つか代表的な例を述べたいと思います。
  20. フィリピンが中国による海洋権侵害に外交手段を通じて訴えたのは、1995年8月に遡ります。当時、中国はフィリピンのパラワン島から126海里に位置する低塩高地のミスチーフ礁を制圧し建造物を構築しました。中国でミスチーフ礁に最も近く位置するハイナン(海南)島は、600海里以上離れているのです。この時の意見交換では、フィリピンと中国は国際海洋法条約(UNCLOS)に従って紛争解決すべきであると合意しました。その2年後の2国間交渉の際、当時の唐家璇外務副大臣は、中国とフィリピンは「国際海洋法条約を含む国際法、とりわけ排他的経済水域に関する規定等に基づいて紛争に対応すべきである」と言明しました。
  21. フィリピンと中国の紛争は、国際海洋法条約(UNCLOS)に従って解決されるべきであると双方が容認した事は、1998年にドミンゴ シアゾン元フィリピン外務大臣と中国の唐家璇外相が2国間協議終了後に発表した共同コミュニケにも反映されています。以下のとおり、コミュニケの記録を引用します。「両国は、南シナ海問題に関する意見交換を行い、これに関連する問題は、国際海洋法条約を含む国際法上確立された原則に従い平和的に解決すべきである。」
  22. 残念な事に、中国一国が実質上南シナ海全域での海洋権を有するものであり、フィリピンは、まず中国の主権を認めなければ、その他の問題についての有効な協議の機会はないという強固な主張から、交渉はこう着状態に陥り、その解決にこれらの二国間協議及びその後の数多くの話し合いが効果を及ぼす事はありませんでした。
  23. また、フィリピンはASEAN主催時にも外交上の解決策を常に試みて来ました。しかしこの試みも2国間での努力同様、好い結果を見る事はありませんでした。実際中国は、ASEANを領土問題や海洋問題の解決の場として利用する事はできず、2国間交渉の場でのみで取り扱うべきと主張したのです。未だASEANと中国は、拘束力のある南シナ海における行動規範の締結には至っておりません。これまでの最大の成果、は2002年に発行された「南シナ海における関係国の行動宣言」です。この文書では、関係国が将来的に南シナ海での行動規範の成立にむけて努力する決意が盛り込まれていますが、13年間に及ぶ中国の多国間協議での強固な姿勢が、この目標を殆ど達成不可能なものにしています。
  24. とはいえ、裁判所長、2002年の行動宣言(DOC) は少なくとも、1つ重要な点において大変意味のあるものです。アセアン諸国と中国は、「1982年の国連海洋法条約(UNCLOS)も含め、広く認知されている国際法の原則にのっとり、脅しや武力行使に頼ることなく、直接 主権国家による友好的な協議と交渉を通して、平和的手段により領有権・管轄権問題を解決する」ことを約束しました。そうすることで、その宣言は、たとえ協議や交渉による解決が不可能だとしても、第15部の紛争の解決を含めた当条約に準拠し処理するよう関係国に促しました。
  25. 裁判所長、ここ数年、中国の主張と行動は、着実により挑発的で当惑させるものとなっています。傍観者はこれを中国の「サラミ・スライス戦略」と呼んでいます。つまり、個別には危機感を抱かせるにいたらないほどの小さな一歩を、時間を掛けて進めるということです。中国の軍当局者はこれを「キャベツ戦略」と呼んでいます。一回に一枚をはぐことを指します。しかし、このような小さな一歩を総合的にみれば、南シナ海の実効支配をゆっくりと強化しようとする中国の成果が見て取れます。
  26. 最近の新たな2つの動きを契機に、フィリピンは拘束力ある決定を伴う強制的手続きを起こす以外に道はないと結論づけるに至ったのです。1つは、中国が2009年に国際連合に対して九段線に関する主張を通達したこと、そしてこれに続いてフィリピンの200海里EEZおよび大陸棚から大幅に内側の水域において、フィリピンによる長期的な石油・ガス開発プロジェクトの実施を妨げたことです。
  27. また、2012年、中国は、今まで中国からの抗議もなく、フィリピン人漁師らが代々、漁をしてきたスカボロー礁の沿岸部から、フィリピン人漁師らを強制的に追い出しました。
  28. 中国によるこうした行動により、フィリピンは、2国間や多国間にかかわらず、継続的な外交努力は無益であり、領有権問題を解決する唯一の方法は現行の仲裁手続きを開始するしかないという結論に至りました。
  29. 排他的経済水域や大陸棚におけるフィリピンの権利をあからさまに軽視し、国連海洋法条約(UNCLOS)を違反し海洋環境の大きな犠牲のもと実施された、また引き続き実施される、中国の大規模な埋め立て作業の加速化を含め、今後起こりうる事象は司法介入の必要性を再確認させるものです。
  30. 裁判所長、最後に、この申し立てに多大な時間と関心を注いでいただき、わが国の深い感謝の気持ちを表明いたします。本件はフィリピン、地域、そして世界にとって極めて重要であります。また、これは、当条約の尊重と、国際社会が長年苦労して築き上げてきた「海洋における法の秩序」の構造そのものにとっても、極めて重要であると考えます。
  31. 中国が南シナ海における海洋の権原について本条約の定める範囲に従わず、本条約の下でのフィリピンの権原を無視できるとすれば、強力で軍備の整った巨大な隣国に関して、本条約は小規模締約国にとって何の価値があるというでしょうか。フィリピンは、自らの主張は本条約の単なる解釈と適用を求めるものであり、第297条や第298条の管轄権の除外規定には該当しないとの考えの下、中国の義務に違反しフィリピンの権利を侵害する中国の活動に対抗すべく、第15部を発動できないものでしょうか。
  32. 裁判所長、フィリピンが第15部を発動できないのであれば、すべての締約国に本条約が受け入れられるきっかけとなった包括パッケージの基本要素である紛争の司法的解決について、一体どのような義務が残るというのでしょうか。
  33. 裁判所長、本機関が全体の英知と判断を行使して本手続きを2つに分け、目下の審理を管轄権の問題に限定する決定を下したことを我が国は承知しています。この点において、正義と公正が勝ち、本裁判所がこの問題に対する管轄権を認め、フィリピンが自国の立場から本案を提示できるよう、この問題が明らかに本裁判所の管轄に当たるものであることを我が国は十分に説明していく所存です。
  34. 貴殿の手中にあるのは、単なるフィリピンの中国に対する権利主張ではありません。裁判長、それは国連海洋法条約(UNCLOS)の精神そのものです。それゆえ、この法的手続きが多くの関心と注目を集めているのではないかと我々は考えます。我々は、当条約を支持し、法の原則を普及させるよう仲裁裁判所に要求いたします。
  35. 裁判所長、そして仲裁裁判所の裁判官の皆様に心から感謝申し上げます。ここで、我が国法律顧問のポール・ライクラー氏を演壇に呼びしたいと存じます。
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